2022.12.21 水曜日

【そのお仕事に必要な商標は「コレ」です】農作物のブランド化を目指す事業者がとるべき商標とは?【商標登録】


これから、ロゴマーク作成、そして商標登録をお考えの方に、具体的な「お仕事」別にポイントをお伝えする、この不定期連載。

第一回

【そのお仕事に必要な商標は「コレ」です】クラフトビールを創業する人がとるべき商標とは?(※ONION商標が提供するサービス「ロゴトアール」サイトにて)

https://logoto-r.com/760/

に続きまして、

第2回となる今回は、農業従事者の方で、ご自身の農作物や、それらの加工物などのブランド化を目指される皆様が、どのように商標登録をすべきか、まとめてみたいと思います。

①なぜ、農作物のブランド化に、商標登録がマストなのか

食事だけでなく、その食材に拘られる方は、年々増えているように感じます。それは、グルメ的な観点だけでなく、食の安全性への意識の高まりからも、「誰が、どのように作っているか」という顔が見えるものへのニーズの高まり、ということでしょうか。

そういう状況で、消費者(需要者)と、生産者(農業事業者)を「信頼感」で結びつけるのは、商標制度の得意とするところですよ。だって、オリジナリティのある名称やロゴマークがあれば、消費者サイドは、評判のいい食材や一度食べて美味しかった食材のリピート購入をするときに、そのロゴマーク等を目印に買えば安心です。

そうして、生産者や食材自体の「いい評判」は、ロゴマーク等に積み重なっていきます。それこそが「ブランド力」なんですね。そのロゴマーク等がついていれば、一般的な価格よりも高い価格で購入してもらえたり、生産エリアより遠くからも購入してもらえたりするわけですから。そのブランド力を、「商標権」という知的財産権の一種で守ってくれる、事業者の無形資産としてくれるのが、商標法に基づく商標制度、ということです。

(農作物に限らず、他にもある商標登録のメリットを紹介した記事はこちら)

「商標登録」をしておくメリットとは? “攻め”と”守り”の観点から、弁理士が解説します 

https://www.shares.ai/lab/chizai/2095354

では、具体的には、どのように商標登録を進めていけばいいのでしょうか。

②農作物の商標登録で、指定すべき「区分」とは?

商標登録出願は、その商標を(”目印”として)使用する商品・サービスを指定して出願します。そして、登録が認められた場合は、その指定した範囲で商標権が発生します。

 

そして、世の中の商品やサービス(※役務、といいます)は、45種類(第1類〜第45類)の「区分」に分類されています。

当然、今回のケースでは、さまざまな「農作物」や、それを原材料とする「加工品」について、個々の商品を指定する必要がありますよね。しかし、これらが異なる区分(第何類か)に属することがあるのです。

まず、

*野菜、果実、花などは…第31類

ですが、

*「冷凍」野菜・果実や、「乾燥」野菜・果実など、なんらかの加工が加わった商品は…第29類  

になるんですね。

(卵、チーズなどの「乳製品」や、ハムなどの「肉製品」、それから「水産加工物」も29類となります)。

また、同じ農作物の中でも、

*茶(茶の葉も)、コーヒー、米などは…第30類 

に分類されています。

また、農作物ベースに飲料を手掛けられる場合もあるかと思いますが、

*飲料用野菜ジュース、清涼飲料、あと(お酒ですが)ビールも、第32類

では、他の酒類はどうかというと、

*清酒、洋酒、果実酒 などは…第33類 

という具合なんですね。一応、分類にあたってのルールはあるものの、なかなかその理解は難しいところでありますので、商標専門の弁理士に、販売予定の商品をご相談しながら、指定する区分を決定することをお勧めします。

また、気をつけなければいけないのは、「農作物等の商品”以外”の商品やサービスにも、その商標を使用する」場合です。

たとえば、「農作物をベースにした料理や飲み物を提供する、カフェ/レストランを作って、そのお店の名前・看板としても、同じブランド(商標)を使用したい」という場合は、

第43類 「飲食物の提供」

という区分・指定役務も指定する必要があります

また、ご自身の農作物等だけでなく、他者が生産した農作物等を販売するショップ(実店舗、ECサイト)を開設し、そのお店の名前・看板としても、同じブランド(商標)を使用されるという場合は、

第35類 小売等役務
(※「
野菜及び果実の小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」といった指定役務になります)

を指定することになります。こちらは、スーパーや百貨店などが通常指定する区分となりますね。

他にも、

*農作物等に付するロゴが人気が出てきて、そのマーチャンダイジング(グッズ、物販)を製造販売する場合も、それぞれの商品の範囲を指定する必要があります。

*ただし、ノベルティ(あくまで農作物等メイン商品の宣伝材料として、少数製造し、無料で配布していくようなもの)であれば、商標登録は不要です。

なお、この区分は、特許庁に出願時・登録時に納付する費用にも影響を与えます(※区分数が増加するほど、これらの費用も上昇していきます)。その点を考慮する一方で、取り扱う商品の範囲をしっかり吟味しましょう。

②農作物などで、商標登録をすべきは商品名?ロゴ?デザイン?

では、農作物等の銘柄の、”目印”として機能するのって、どの部分でしょう?農作物自体で見分けるわけにはなかなか行きませんから、パッケージなどに記載することが一般的ですが、

*想いを込めてつけた、ブランド名(文字)でしょう
→文字は商標登録の対象です。

*かっこいいロゴマークがあるんです
→図形も商標登録の対象です。

*いや、ラベル/パッケージ「全体」がかっこいいんだよね
→パッケージも図形と考え得れば、商標登録の対象になり得ます…

「えっ、3つも商標登録しなければいけないの?」と思われるかもしれませんが、優先順位の高いのは、ブランド名(文字)か、ロゴマークです。

さらにその2つのうち、、ロゴマークの中にブランド名が含まれているなら、ロゴマークの登録がまず優先になるかと思いますし、「名前は決まっているが、まだロゴマークはできていない」というような場合は、文字(※標準文字)での登録を優先させてください。

④誰も登録できない商標・特定の人だけが登録できる商標

商標登録の原則は「早い者勝ち」です。もう少し詳しくいえば、③で説明した「指定商品・指定役務」が重複する範囲で、せっかく自分で思いついたブランド名と、同一か類似の商標を、他人が既に出願(→登録)していれば、商標登録は受けられません。

ただ、世の中には「誰もまだ登録していない」のではなくて、「誰に対しても登録が認められない」商標というものがあります。そのポイントは、その商標に”目印”となる力(「識別力」、といいます)があるかどうか。つまり、他人の商品等と、しっかり区別することができるか、という点です。

たとえば、極端な例で言えば、「指定商品「りんご」について、商標『APPLE』を登録したい」と思っても、指定商品の一般名称・普通名称が「りんご」で、英語ではあるものの「APPLE=アップル=りんご」は日本でも通用しているわけですから、他人の商品と区別する識別力がありません。こういう商標は、誰にも登録が認められないわけです(※誰か一人に独占させるのはよくない、という観点もあります)。

このような識別力のない商標を「記述的商標」と呼んだりします。他にも、「赤いりんご」とか、「果汁100%りんごジュース」というように、(りんごやジュースといった)商品の「品質」などをただ説明しただけの文字商標は、誰にも登録が認められません。

その点、「産地・販売地名+農作物等の商品」(例:指定商品「りんご」について、商標「九段下りんご」)の商標も、記述的商標として認められないのが原則なのですが、

「地域団体商標」という制度があり、特定の組合や、商工会、商工会議所、NPO法人等が、その会員に使用させるために、地域ブランドとして出願する場合、登録が認められ得ます。

https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/chidan/t_dantai_syouhyo.html

また、個人や一般企業には「地域団体商標制度」は利用できないのですが、そういう方々にはこちらの方法があります。

◎識別力のない文字に、ロゴマーク(※一般的には、図形には識別力が認められます)を加えれば、記述的商標とはならずに、登録できる可能性が出てきます。

なお、ロゴマークで商標登録できた場合でも、そこに含まれる「識別力のない文字」の使用について、独占することはできません。しかし、それでも、そのような文字をブランドとして使っていきたいというかたは、ロゴマーク化をご検討ください。

⑤農作物等の商標登録をすべきなのは、どのタイミングか?

「最初はこじんまりと始めますんで、人気が出てきたら商標登録考えます…」というのが、一番危険なパターンです。前述のとおり、商標登録の大原則は「早い者勝ち」ですから、後回しにしておくと、他の人に先に出願→登録されてしまうかもしれません(そうなったら、あなたの商標は、登録できないことになってしまいます)。

もっといえば、商標登録をせずに商品を発売してしまった後になって、実は自分の銘柄が、他の人が登録していた商標と同じ又は似ていた場合、その人の「商標権侵害」となってしまいます。想いを込めて名付けた銘柄を、変更しなければいけなくなれば、精神的な痛みだえけでなく、マーケティング/経済的な痛み(パッケージ、看板、名刺、ウェブサイト等の変更…最悪、損害賠償も)も伴います。

なお、②とも関連する話ですが、ロゴマークに文字(商品のブランド名)が含まれている場合、「ロゴの図形は類似ではないんだけども、文字が同一又は類似である商標」も、類似と判断される可能性が高いです。

ということは、先に他人によって(各種農作物と、類似する商品の範囲で)同じブランド名(文字)が先に出願されていたら(※いわゆる先願です)、あなたのロゴマークは先願との類似を理由に拒絶され、登録ができない可能性が高くなります。

「これで行きたい!」という銘柄の第一希望案が決まったら、それで具体的な製作に走り出す前に、ぜひ商標登録に向けて、登録可能性の調査から始めてください。特に、ロゴマークに商品のブランド名を含める場合、そのデザインをし始める前に、そのブランド名(文字)の登録可能性を調査する必要があることにご注意ください。

逆に言えば、もし、すでに農作物等に名称やロゴをつけて販売し始め、軌道にのっている=「うちの商品に人気が出てきたな、ブランド力がついてきたな」と感じているのに、まだ商標登録出願をされていないという方。もう”待ったなし”です。大至急、商標登録出願に向けて、”商標に強い”弁理士にご相談ください。

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